胃粘膜拡大内視鏡(胃カメラ)では、胃腺の構造や毛細血管の走行、これらが形成する胃粘膜の微細構造を詳しく見ることができます。詳細な観察により早期癌の診断精度が高くなります。拡大内視鏡でみると、胃粘膜の胃底領域と幽門腺領域の形態は異なっており、さらに炎症及び萎縮の影響で、極めて多様な変化が観察されます。
▸ 胃底腺黏膜
通常萎縮のない胃底粘膜は円形または類円形の構造です。胃小窩(胃腺のくぼんだ部分)周囲は毛細血管からなる血管網で囲まれており、内視鏡では規則的な赤色の網目構造が観察できます。この血管網をtrue capillaries(真性毛細血管)といい、血管網中心には、腺開口部gastric pitという針状があります。
胃カメラ-胃粘膜拡大内視鏡観察
NBI-胃粘膜の染色観察
▸ 萎縮した胃底腺粘膜
萎縮した胃底腺粘膜では、腺開口部を見ることができません。拡大内視鏡では白い円形の胃粘膜と胃小窩構造は見られますが、真性毛細血管は観察できません。
▸ 幽門腺粘膜
通常萎縮のない幽門腺粘膜は、浅い隆起状の複雑な粘膜構造で、毛細血管の存在をはっきり確認することはできません。腺粘膜が萎縮すると粘膜構造は粗くなり、一部では絨毛構造もみられます。
▸ 腸上皮化生粘膜
腸上皮化生粘膜は、拡大内視鏡で大小の絨毛構造がみられます。絨毛構造は胃底腺・幽門腺粘膜より構造が大きいので、容易に区別できます。絨毛内にはループ状の血管がはっきりと観察できます。
▸ 特殊胃粘膜所見
a.a. ピロリ菌胃粘膜反応(胃腸炎)
ピロリ菌に感染していない正常粘膜では、一定の間隔で赤く小さい点がみられます。拡大観察では胃粘膜内に集合細静脈(collecting venues)の規則正しい配列が確認できます。ピロリ菌に感染している胃粘膜では、拡大内視鏡で不規則な配列の集合細静脈がみられます。ピロリ菌感染により炎症、粘液増加が引き起こされると、集合細静脈を見ることが観察できなくなります。
b.胃潰瘍周辺粘膜の拡大観察
潰瘍周辺の再生粘膜の微細な構造に基づいて、臨床経過を判断します。活動期(A2 stage)の潰瘍周辺の再生粘膜は、「無構造で平坦」です。慢性の潰瘍が完治すると、柵状、紡錘状、結節状の粘膜が形成されます。治りやすい胃潰瘍の治癒期には、柵状、紡錘状の粘膜が見られ、治りにくい胃潰瘍では高い割合で結節状の粘膜が見られます。拡大内視鏡によって潰瘍の治癒経過や再発の可能性がわかります。
c.胃底腺ポリープ
胃底腺ポリープの粘膜は、類円形の腺窩構造とその周囲の真性毛細血管が微細粘膜構造を形成し、胃底腺粘膜と同じように見えます。胃底腺ポリープの診断は簡単で、粘膜構造は正常で、不規則な変化はありません。
d.びまん性胃前庭部毛細血管拡張症(DAVE;diffuse antral vascular ectasia)
一般内視鏡観察では、前底部でびまん性(広い範囲)の発赤がはっきり確認されます。拡大内視鏡観察では発赤部位の拡張した毛細血管の集まりが確認されます。毛細血管が蛇行する方向は比較的規則正しく、血管径はほぼ一定で、癌病変の異常血管とは異なるため、癌との識別は難しくありません。
▸ 早期胃癌の拡大内視鏡診断
胃早期癌は、腺窩構造の拡大内視鏡観察によって粘膜構造を以下のように分類します。
(1)微細型(2)不規則・破壊型(3)無構造
a. 高分化型腺癌
拡大内視鏡で、組織学的に異型性が低い腺構造が多い部位では微細型の、異型性が高い腺構造が多い部位では、不規則・破壊型の粘膜構造変化がみられます
b.未分化型腺癌
腺管構造が完全に破壊されると、拡大内視鏡で無構造の粘膜変化がみられます。早期癌の粘膜上では、大小不動の血管径、不規則な走行、血管の拡張及び蛇行など、様々な異常変化が観察されます。
▸ 胃早期癌のNBI併用拡大内視鏡観察
狭帯域光を利用したNBIでは、胃の表層の微小血管や微細な粘膜構造が強調されます。さらに拡大内視鏡(拡大80倍)を組み合わせることで、早期癌の観察と診断精度が上がります。